誰もが公平にアクセスできる世界へ。
マイクロソフト・コーポレーション(米国本社)の社員でありながら国際NGO団体の理事として、自身の強みであるテクノロジーを用いて発展途上国の支援活動を行う安田クリスチーナ氏。
クリエイティブかつグローバルな視点で「誰もが公平にアクセスできる世界をつくり貧困をなくすこと」を目指し、世界にイノベーションを起こす仕掛人、安田氏のスペシャルインタビュー。
マイクロソフト・コーポレーション
アイデンティティ・スタンダード・アーキテクト
教育顧問
安田 クリスチーナ氏
KRISTINA YASUDA
パリ政治学院主席卒業。2016年に米NGO「InternetBar.org」ディレクターに就任し、途上国における身分証明インフラを整備するデジタル・アイデンティティ事業を新設。17年にアクセンチュアの戦略コンサルティング本部に新卒入社。19年にマイクロソフト・コーポレーションに転職し、Identityアーキテクトとして分散型IDを含むIdentity規格の国際標準化に取り組む。2019年Forbes Japan 30Under30 に選出。2020年JCI JAPAN TOYP 文部科学大臣奨励賞を受賞。人権を守りつつ、個人情報の有効活用に取り組むMyData Globalの理事にも選出。内閣官房主催のブロックチェーンおよびTrusted Webに関連する協議会の委員も複数務める。
企業や国家に頼らず、個人で「自分」の情報を管理できる「分散型ID」技術。
● はじめに、「アイデンティティ・スタンダード・アーキテクト」とは、どんなお仕事ですか?
安田氏 一言で言うと「分散型アイデンティティ(以下、分散型ID)技術の実装に向けた規格を標準化する」という仕事です。ちょっと難しいかもれませんが、分散型IDとは「第三者を必要としない個人所有型のデジタルIDシステム」のこと。現在は、運転免許証や学生証のようにデジタル上で「自分」を証明する普遍的な手段が存在しません。かつ、現在はECサイトなどインターネット上でのサービスを利用する場合、自分の名前や住所・クレジット情報などの個人情報をそれぞれのサービスごとに登録しなければいけませんよね。つまり、これはECサイトなどサービス提供側で個人の情報が管理されているという現状です。
将来、分散型IDが実現すれば、自分の情報を携帯のウォレットに登録し、サービスごとに毎回情報を登録することなく「ピッ」と簡単にサービスを受けることができますし、企業に頼らず「自分」の情報を管理できるようになります。そして、「規格の標準化」について。これは普段生活をしていると気づかないと思いますが、とても重要視されている分野です。例えばUSBの場合、どの会社が作ったUSBでもすべてのパソコンに挿さりますよね。これはすべての会社が同じ規格で作っているから。アイデンティティにおいても大企業だけでなくスタートアップが参入しても同じ規格で利用できるようにするために標準化は必要なのです。
コードをかける人はたくさんいる。
人と人をつなげる人間力が強みになる。
● 現在のお仕事に就くためには、エンジニアからスタートするのですか?
安田氏 バックグラウンドを見ていただくと分かると思いますが、私はエンジニアではありません。ですから入社当初は、パッションはあるけどコードをガリガリ書けるわけでもないし、本当に会社に貢献できるのかと不安でした。でもコードを書ける人は社内にはたくさんいる、それよりもコミュニケーション力や交渉力があり、きちんと社内・社外のニーズを理解・整理して、どのタイミングで誰をどうつなげて行けるか、それをできる人のほうが強いと気づきました。ここ数カ月を振り返ったのですが、しっかり成果が出ていたのでとても嬉しかったです。ですから、技術がすべてではないのでエンジニア出身でなくてもキャッチアップできると思います。
● 本社であるアメリカのマイクロソフト コーポレーション(以下、MS)に入社した経緯について教えてください。
安田氏 これは面白くて、私はLinkedIn(世界最大級のビジネス特化型ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でヘッドハンティングされました。元々、学生の頃から発展途上国支援にとても興味があり様々な活動をしていましたが、限界を感じてしまって…。「民間の大きなお金が動いている世界を理解しないと世の中を動かせないのでは?」と思い、NGOの活動を続けながら新卒でコンサルティング会社に入社しました。すると、あるとき『ハーバード・ビジネス・レビュー』でブロックチェーン技術に関する記事を書く機会をいただいたのですが、その記事をきっかけにお仕事につながったんです。新卒が数千万円の仕事を取るのは前代未聞で(笑)。それ以来、社内のブロックチェーンエキスパートとしてプロジェクトに関わることになり、その噂がMSのリクルーターの耳に入り入社することになりました。
入社当初はアイデンティティに関係のない部署で働いていましたが、あるカンファレンスで登壇したところ、現在の上司も聞いており「今のMSチームに足りない視点だ!」と興味を持ってくださって。その後改めて自分でもチームに入りたいという熱意を伝え、無事に現在のチームに加わることができました。リーガルのバッググラウンドを持っていたことも強みになったのかもしれません。
分散型IDが実現すれば、難民の雇用につなぐことができる。
● 国際NGO団体の理事としてテクノロジーを活用しながら発展途上国支援もされていますが、そこでは分散型IDはどのように使われるのでしょうか?
安田氏 日本女性の失業率が数パーセントに対し、ザンビアでは約20パーセントと非常に高いのですが、分散型IDのインフラが整えば政府などにとらわれることなく雇用証明書を発行でき、雇用につなげることができます。将来的には、ザンビアにいながら南アフリカの人から雇用を受けられる、そんなことが実現できれば良いなと思っています。一方で、課題もあるのでひとつずつ議論していかなければいけません。
● 多忙な日々を過ごされていますが、原動力は何ですか?
安田氏 もちろんより多くの人の人生を豊かにしたいというパッションですね。ザンビアで融資を受けたシングルマザーがお子さまを養えるようになったと聞くとうれしいですし。それに、好奇心旺盛なので新しいことを学んだり創ったりすること自体がとても楽しくて。これからもプロセスを楽しみながら経験を積んで行きたいですね。
世界で活躍するには、ディベートできる英語力を身につけて。
● 英語、日本語、ロシア語、フランス語の4カ国語を話されますが、各国の言語でコミュニケーションすることは大切ですか?
安田氏 はい、本当にそう思います。特にハッキングやテック業界は全部英語ですし、最新のコードや解説書を手に入れようとしたら英語ができた方が良いと思います。それと国際会議の場などに行くと、日本ってもったいないなぁと思うことがあります。すごくリサーチして準備しているのに英語力が障壁となり議論を上手く展開できないことも…。英語力に加えてディベート力を身につけておくと良いと思います。
● 最後に、今後の目標や夢は何ですか?
安田氏 短中期的に言うと分散型IDの実用化です。10年以上は掛かると思いますが、ちゃんと運用して便利さをきちんと実感してもらうまで持っていきたいですね。
そして「Outgrow」という言葉があるのですが、上司には、私はもっと成長できる場所を求めに行っちゃう、というのが見えているようで(笑)。だから、たくさん経験して自分の強みであるテクノロジーを軸に社会貢献していきたいと思います。ちなみにMSは現在ケニアにアイデンティティの拠点を新しく作っているので、もしかすると1年後にはケニアにいるかもしれません。
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