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シスコシステムズ合同会社
代表執行役員会長

鈴木和洋

変わるしかないのなら、「変えられる側」ではなく
「変える側」になってほしい

今や日常に欠かせないインターネット。30年以上前からその技術と向き合い、現在のネット環境のベースを築き上げてきたシスコシステムズ。東京2020オリンピック・パラリンピックではネットワーク製品のオフィシャルパートナーとして、大会運営を支援。多岐にわたり事業を統括・管理する鈴木氏を訪ね、お話を伺う機会をいただきました。

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代表執行役員会長

鈴木和洋

KAZUHIRO SUZUKI

2018年9月より現職。現在、会長として、全体のビジネスマネージメントに加えて、中長期成長戦略を担当。また経済同友会幹事として経営、経済に関わる提言活動に携わる。

企業としての目標は格差・分断のない社会づくり

学生 貴社の理念や社風を教えてください。

鈴木 シスコシステムズのパーパス、存在意義は「すべての人のためにインクルーシブな未来を実現する」というものです。Inclusiveは「包み込む」という意味であり、このパーパスには「格差・分断のない社会をつくりたい」という意思が込められています。具体的には、ネットワークでみんなに機会を提供することによって、社会から取り残される人が生まれないようにするという考え方ですね。社風を一言で表現すると「オープンコミュニケーション」でしょうか。トップと現場が近い環境で、常に多様性が重視されています。性別や人種、年齢、宗教など色々な属性の人を互いに認め合い、違った意見をぶつけ合ってイノベーションを起こすこと。そこにパッションを持つ会社であり続けたいです。

学生 「格差・分断のない社会づくり」は、貴社が目指される最終的な目標なのでしょうか?

鈴木 そうですね。その背景には、アメリカ社会の格差と分断が深刻化していることがあります。先の大統領選挙でトランプ氏が負けた時に、支持者たちが議会を攻撃して死者が出るという事件がありました。もともとアメリカは多様性でイノベーションを起こしてきた国であって、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズ氏はシリア系でしたし、グーグルはロシア系、ヤフーは中国系の創業者が立ちあげた会社です。移民の子供でも才能とパッションさえあれば、イノベーションが起こせたんですよ。ところがイノベーションの先に格差が広がると、勝つ人と負ける人が出てきてしまう。格差社会の下の方に追いやられた人たちがトランプ支持者となって、議会襲撃まで起こしてしまった事件は本当にショックでした。本来アメリカは、自由の国・憧れの国であったはずなのに…。だからこそいま、アメリカの会社は自らの存在意義をあらためて考えています。格差のない国の姿というものを、みんなが考え始めているんです。

学生 鈴木会長ご自身は、いま何に最も興味をお持ちですか?

鈴木 個人としても、社会課題ですね。企業は、社会が安定していないとビジネスができないんですよ。安定した社会にするためには、社会課題を解決しなければならない。いま言ったように、アメリカはそれに気づいたんですね。近年日本でも、格差が徐々に広がっています。そんな中で、デジタル技術を活かして色々な人に成功する可能性を提供したい。また、少子高齢化が進んで社会保障に多くのお金がかかるようになる問題に対して、支出を減らせるソリューションを検討する。そうしたことに、強い関心を持っています。

学生 海外と日本で働き方の違いがありましたら、教えてください。

鈴木 基本的には変わらないと思います。当社は20年くらい前からリモートワークに取り組んでいて、コロナが働き方に影響を与えることはそれほどありませんでした。それは海外でも同じで、全世界のスタッフがリモートで働ける環境になっています。働き方の自由度は、とても進んでいる会社です。加えて世界のシスコシステムズに共通するのは、冒頭に述べた多様性ですね。男性・女性・人種を問わず、みんなが同じ目線で働いていて、異なる意見を排除することはありません。

学生 海外の部署で働く場合には、TOEICでどのくらいの点数が必要でしょうか?

鈴木 高いに越したことはないでしょうが、点数が高いからコミュニケーションが上手いとも限りません。最初は英語が得意じゃなくても、とにかく場数を踏むことが大事です。日本人は真面目だから、英語を話す時に文法を気にしすぎるんですよね。でも海外の人たちは、文法など関係なく言いたいことが伝わればいいと思っている。アメリカ人でさえ、話す時の文法は滅茶苦茶だったりしますから(笑)。こう言う私も、昔は苦労しました。文法を考えているうちに、会議は次のトピックに移っている。そんなことばかりでした。だからとにかく、外国人とのコミュニケーションの場数を踏むようにしてください。

学生 IT業界で働く女性はまだまだ少ないと思うのですが、それについてはどう思われますか?

鈴木 もちろん、どんどん働いてほしいと思います。実はアメリカでもIT業界で働く女性はまだ少なくて、日本ではもっと少ないのが現状です。20年前は「3K」というほどではないにしろ、IT業界にあまり良いイメージはありませんでした。ですが、いまは女性が働きやすい環境が整ってきたので、ぜひ多くの女性に業界で活躍してほしいです。

学生 東京オリンピック・パラリンピックでは、どんな業務に携わられたのですか?

鈴木 競技場、選手村、データセンターなどのネットワークシステムの構築です。大きくは、競技に関係するデータネットワークと組織委員会が使うアドミニネットワークの2つで、データネットワークにはすべての競技記録が格納されます。それは未来に残っていくものなので、改ざんやハッキングは絶対に許されません。だからこそ、守秘義務があって詳しくは言えないのですが、二重三重の盤石なバックアップ体制を構築しました。

「デジタルで何をやりたいか」をハッキリさせること

学生 今後ネットワークの世界も、DX技術の進化で変化していくのでしょうか?

鈴木 いまは政治界でも、「デジタル」がキーワードとして多用されていますよね。たとえば「決済に必要な16個のハンコを電子化できないか?」など。でもそれは、そもそもの論点が間違っていて、デジタル化する前に「なぜハンコが16個もいるのか?」ということなんですよ。デジタルはあくまで手段であって、目的ではない。大切なのは「デジタルで何をやりたいか」をハッキリさせることです。「デジタルだからカッコいい」とかではなく。DXも同じことで「会社にDXを導入したい」と相談された際、「それで何を達成したいのですか?」と聞いても分からない人が多いんですよね。アナログが悪いわけではなく、AX、アナログのままトランスフォームするべきものもあるはずですし、ただ流行に乗ればいいということではないと思います。

学生 日本においてDX化するべきものと、すべきでないものは何だと思われますか?

鈴木 まず行政はDX化してほしいですね。デジタル化がいちばん遅れている分野だと思うので。それには理由があって、ビジネスの世界には必ず競争があるのですが、行政にはないんですよ。だから「現状維持のままでいい」という人もいてしまう。しかし「これまでの縦割りを壊してデジタル化を推進しよう!」ということが決まったので、今後に期待しています。逆に一気にデジタル化しなくていいものは、京都の伝統芸能とか、幼児教育など人の温もりが必要な職業でしょうか。そうしたものにおいては、アナログとデジタルのコンビネーションが必要なのかなと思います。

若い人たちは、いい子になろうとしすぎていないか?

学生 最後に、IT業界を目指す学生へエールをお願いします。

鈴木 私自身、IT業界の可能性は無限大にあると信じています。若い皆さんには、その中で大きな変化を生み出す人になってほしい。IT業界は、自分自身が変わっていかないと生きられない世界です。であればこそ、「変えられる側」ではなく「変える側」になってほしいんです。いまの若い人は、社会や環境のことを考えていて素晴らしいと思います。ただ気になるのは、いい子になろうとしすぎていないかということ。SNSなどで炎上を怖れるあまり、本当に言いたいことが言えなくなっている。空気を読むことばかり考えている人が多い気がするんですね。若い時はそんなことは考えず、自分の個性を磨いてほしい。他人と合わせるだけだと、つまらない大人になってしまいますから。

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