成功の秘訣は“熱意”
ニーズを軸に新たなアイデアを創造しよう
玩具やゲーム、音楽、アニメと数々の名作を発信するバンダイナムコグループ。バンダイナムコアミューズメントでは、「namco」や「VSPARK」など、施設に特化したユニークなエンターテインメントを展開しています。「アイドルマスター」の生みの親としても名高い、同社クリエイティブフェロー・小山順一朗さんにお話を伺いました。
プロダクトビジネスディビジョン
クリエイティブフェロー
小山順一朗さん
JUNICHIRO KOYAMA
海外のVR業務用ゲーム機「VIRTUALITY」を日本に展開。その後、「アルペンレーサー」などの体感マシンを中心に開発。「アイドルマスター」や、「機動戦士ガンダム 戦場の絆」など次々と携わる。2015年からはVR技術でエンターテインメントの未体験領域を開拓するプロジェクト「Project i Can」を担当し「コヤ所長」として活躍中。
培ったノウハウを継承する社内唯一のポジション
学生 バンダイナムコグループが掲げる理念を教えてください。
小山さん バンダイナムコアミューズメントとしては“今ここにしかないエンターテインメント”を掲げ、主に外遊びでしか味わえない遊びを創り出そうとしています。現在、エンターテインメントの形は多様ですが、各分野での役割を果たすことでこれまでにないものが生み出せるかもしれません。グループ全体の理念は「夢・遊び・感動」。いずれも嫌いな人はいないのではないでしょうか。より作品の出口を広く、さまざまな形で世の中に広めていくことができます。たとえば作り上げたキャラクターを、ゲームの中だけでなくアニメやVR空間で活用することもできますし、立体フィギュアやロボットにすることも可能です。このように、多角的な視点を持ちながら創造することを目指している会社だと思います。
学生 「クリエイティブフェロー」とはどのような仕事なのでしょうか?
小山さん 実は「クリエイティブフェロー」の役職を担うのは、グループ全体1万何千人の中で私ひとりです。プロデューサーを束ねる事業部長やその仲間の取り組む商品が正しく、よりいい方向に進むよう導く立場です。31年のキャリアで得た知見をもとに、気づきを与えたり、勉強する機会を作ったりすることによって、制作の手助けをしています。正直、就任した当時はまだ自分の名前や力で作品を作りたいと思っていましたが、今では彼らが成長していく姿を見ることも喜びになっています。アドバイスにとどまらず、自分がしたいことを一緒に創るチャンスを伺ったり……わりと恵まれた立場かもしれません。これまで私は1つのゲームタイトルだけを長期にわたって担当したことがありません。「鉄拳」や「アイドルマスター」「マリオカート」も、軌道に乗れば若いメンバーに任せてきました。というのも、メーカーは“お客さんと商品の結びつき”によって存在していると思っているからです。自分が表現したいことだけでなく、お客さんが喜んでくれることが楽しい。その接点をできるだけ数多く作りたいと思って続けてきました。
学生 入社を希望したきっかけは何でしょうか?
小山さん 私が入社したのは1990年です。小・中・高校と進学校で、就職を考えて理系の大学で勉強しましたが、将来を考えてもどうもピンとこない。進路相談をした際、先生に「好きなことをしたら?」と言われて気づいたのです。ずっと周囲の期待に応えることばかりにとらわれていたけれど、ゲームが好きだからゲーム会社に入る――好きなことを仕事にしてもいいのだと。その瞬間にスッキリして、世界がバラ色に見えました。学生時代の成績は優秀とは言えませんでしたがナムコに受かり、それが私のスタートです。入社当時、同期と一つ違ったのは、大学4年間をすべてゲームに捧げていたので知識と経験だけは人並みはずれていたことかもしれません。
早いスピードで進化する技術と人間の倫理によって世の中はよりよくなる
学生 クリエイティブはどのように生まれるのでしょうか?
小山さん アイデアだけがクリエイティブを生み出すわけではありません。誰かの望むこと(ニーズ)を軸に模索しながら世の中にないものを作り出すのもクリエイティブの力です。たとえば「空を自由に飛びたいな」というニーズがあったとします。もちろん物理的に飛ぶ仕組みを考えてもいいですし、ドローンで撮影した動画をゴーグルで見るVRのようなものを使っても空を飛んでいる感覚は得られるかもしれません。「空を飛ぶ体験をさせる」といった明確な目標さえあればアイデアは生まれやすくなるでしょう。それがクリエイティブの第一歩。
使いみちのないアイデアは危険です。我々は、お客さんにものを作ってお金をいただく仕事をしています。課題やニーズに対して、これまでにないアイデアで応えることが非常に重要です。極端な話、目標を達成するためであればアイデアはいくら変わっても構いません。
学生 現在のゲーム業界をどのように見ていますか?
小山さん 近年のゲーム業界の大きな潮流の一つには、海外メーカーの台頭があります。少し前までは日本のゲームクオリティはどこよりも高いと言われていましたが、今、世界に通じるオリジナルゲームを作っている国内の会社はほとんどありません。特に中国の発展はめざましく、開発力も上がり、規模も拡大しています。量産力とスピードには優れていますが、ただ“新しいものを作る開発力”はまだ日本のほうが上回っているはずです。お客さんの問題を解決したり、見えないニーズを探り出す力はまだある。そこには、みなさんの力をどれだけ割けるかにかかっていると思います。またインディーズゲームも大きな潮流となっていますね。少人数でチャレンジしながら、どんどんおもしろいものを生み出しています。
広い視野でたくさん体験して豊かな創造性を身に付けてほしい
学生 ゲーム業界を目指す人に必要なスキル、成功の秘訣はありますか?
小山さん 必要なものはまず熱意です。成功するための法則は「熱意×能力×技術±運」。能力と技術は時間、すなわち経験で身につきます。しかし熱意は誰にも教えてもらえないもの。本人が持っていなければベースとなる要素がなく、いくら能力や技術を備えていても掛け算の結果は大きくなりません。運が±なのは、自分の力ではどうにもできないものだからです。この式を逆「運×技術×能力±熱意」にするとどうでしょう。能力と技術が高い人を集めても、結局「熱意」が±になってしまうとうまくいきません。なぜなら失敗を運のせいにしてしまうからです。熱意という基盤に対して、能力と技術が掛け合わさることによって初めて成功に至ります。運は±でも仕方ありませんが熱意が±ではいけません。
学生 業界を目指す学生にメッセージをお願いします。
小山さん 私が社会人になって常に思うのは“好きなことを好きな人と好きなようにやる”――これが一番幸せになれる秘訣です。実際、社会に出ると無理難題を課されたり、苦手な人と仕事をしないといけなかったり、理想通りにならないことはあります。しかし、最後に行き着くのは“好きなこと”を好きな人と好きなようにやること。そのために何をすべきかを常に考えてください。
取材日:2021年8月29日
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